2024昭和大学Ⅱ期英語4⃣



宇宙航空企業スペースXは、イーロン・マスクの指揮のもと、人類がいつか火星に着陸できる技術を開発している。それが再利用可能なロケットである。この技術は、2015年12月のある夜、重要な試験をクリアした。フロリダ州ケープカナベラルから、マスクの会社スペースXが製造したロケットが、11基の通信衛星を搭載して打ち上げられたのだ。

飛行開始から数分後、ロケットのブースターは本体から分離した。これまでにも何千ものブースターが使用済みとして切り離されてきた。しかし、このブースターは使い捨てではなかった。落下する代わりに反転し、エンジンを再点火して減速しながら、近くの着陸パッドへと誘導された。つまり、基本的には逆向きに飛行したのだ。

カリフォルニア州ホーソーンにあるスペースXの管制室では、何百人もの若い技術者が映像画面に映る光の球を見守っていた。マスクは外に出て、直接その様子を見届けた。これまで、このような方法でブースターロケットを着陸させた者はいなかった。スペースXが最初の数回試みたときは、ロケットが爆発してしまった。しかし今回は、ブースターは穏やかに、安全に、そして成功裏に着陸した。技術者たちは画面の前で歓声を上げた。

スペースXは、再利用可能なロケットの実現に向けて、大きな一歩を踏み出したのだった。マスクによれば、この技術は打ち上げコストを100分の1に削減する可能性があり、スペースXが衛星を打ち上げたり、国際宇宙ステーションに物資を届けたりする際に役立つだろう。しかし、マスクにとってそれは本質的な目的ではない。彼は、「ブースターロケットの初の軟着陸は、火星に都市を築くための重要なステップだ」と語った。

イーロン・マスクは、アポロ宇宙飛行士が月に着陸したように、ただ火星に降り立ちたいわけではない。彼は、地球上の災害によって人類が絶滅する前に、新たな文明を火星に築きたいのだ。彼の構想では、宇宙船の艦隊が100人の入植者を乗せて火星へ向かう。その多くの人々は、新世界への移住費として50万ドルを支払い、再利用可能なロケットで運ばれる。

2002年に設立されたスペースXは、まだ一度も人間を宇宙へ送り出していない。しかし、近い将来、NASAの宇宙飛行士を国際宇宙ステーションへ運ぶことで、その状況を変えようとしている。マスクは、スペースXが2024年秋に初の宇宙飛行士を火星へ派遣し、2025年春に着陸させる計画を発表している。

1969年に人類を月に送り込み、それ以前から火星探査機を送り続けてきたNASAも、火星に宇宙飛行士を送る計画を立てている。しかし、それは2030年代になってからの予定であり、しかも火星の周回軌道にとどまる計画だ。実際に大型の宇宙船を火星の地表に着陸させることは、「遠い将来の目標」とされており、NASAが実現するのはさらに先の時代になるという。NASAは、火星に都市を築くことについては語っていない。

火星に到達するには、技術と資金だけでなく、「どこまでのリスクを許容できるか」という問題も関わってくる。早期の火星着陸を支持する人々は、「NASAはリスクを避けすぎている」と主張する。真の探検家は失敗や死の可能性を受け入れるものであり、過去に極地や海を渡ろうとした人々も、それを覚悟していた——そして、多くが帰還できなかった。NASAが宇宙飛行士の生存と帰還をそれほど気にしなければ、人類はもっと早く火星に到達できるかもしれない。

しかし、人類を火星に送るには、乗り越えるべき課題が数多くある。無重力状態では骨が衰える。経験則として、1か月に骨密度の1%が失われると言われている。激しい運動が対策となるが、宇宙ステーションで使用される運動機器は、火星ミッションに搭載するには重すぎる。また、宇宙飛行士の中には、脳内に液体がたまり、それが眼球を圧迫することで深刻な視力障害を起こす者もいる。最悪のケースでは、宇宙飛行士が火星に到着した瞬間に視界がぼやけ、骨がもろくなり、すぐに脚を骨折してしまう可能性がある。理論上、このリスクは宇宙船を高速回転させ、遠心力で人工重力を生み出すことで軽減できる。しかし、NASAの技術者たちは、それがミッションを複雑にしすぎると考えている。

放射線も重大な問題だ。現在、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士は、地球の磁場によってある程度の放射線から守られている。しかし、火星への航行中は、太陽フレアや宇宙線による放射線を直接浴びることになる。対策の一つとして、宇宙船の居住モジュールに水や土を詰めて植物を育てることで、部分的な放射線シールドを作る案があるが、これも重量の問題がある。

さらに、心理的な課題もある。火星ミッションには、孤独や退屈に耐え、火星に到着したらすぐに行動できるタイプの人間が求められる。つまり、精神的に強く、優れた社交スキルを持つ人でなければならない。

こうした課題を考慮すると、有人火星探査は、NASAとスペースXの協力が不可欠となるだろう。スペースXの50万ドルのチケット収益では、ミッション全体の費用をまかなうことはできない。一方、NASAは、スペースXのロケットや宇宙カプセル、そしてその情熱から多くを得ることができる。

では、いつ人類は火星へ向かうのだろうか? もしNASAとスペースXが提携するなら、NASAの慎重なスケジュールに従う可能性が高い。では、火星で何をするのか? 何千人もの人々が火星の都市に移住する未来を想像するのは難しい。しかし、数人の科学者が1〜2年間、小規模な火星研究基地で暮らす未来なら、南極の研究ステーションのように現実的かもしれない。

設問
1 × SpaceXの再利用可能なブースター付きロケットはカリフォルニアではなくフロリダのケープカナベラルから打ち上げられ、着陸も近くの着陸パッドに行われた。
2 × SpaceXのロケットに搭載されていた11基の通信衛星がNASAによって開発されたとは本文に書かれていない。
3 × SpaceXは2002年に設立されたが、まだ1人の宇宙飛行士も宇宙に送っていないと本文にある。
4 × マスクが自身が火星への最初のミッションに参加したいと述べたという記述は本文にはない。
5 × 2024年に計画されているミッションについて、火星到達まで1年以上かかるとは書かれていない。
6 ◎ SpaceXは2024年の秋に宇宙飛行士を火星に送り、2025年の春に着陸させる計画であり、NASAは2030年代に火星軌道へ宇宙飛行士を送る計画なので、SpaceXの方が先に火星に宇宙飛行士を送ることになる。
7 ◎ 無重力は骨の強度と視力の両方に影響を与えると本文にある。
8 × SpaceXが遠心力を用いて人工重力を作り出す実験をしているとは本文には書かれていない。むしろ、NASAのエンジニアがそれを「ミッションを複雑にしすぎる」と考えているとある。
9 × 宇宙ステーションの宇宙飛行士は地球の磁場によって放射線からほぼ守られているため、大きな危険にはさらされていない。むしろ、火星への旅の途中が危険であると述べられている。
10 ◎ 火星ミッションはNASAとSpaceXの協力が必要になる可能性が高いと本文に書かれている。